経済白書2010

H21
雇用安定機能と人材育成を備えた
雇用システムの意義
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はじめに
我が国経済は2007年秋以降、景気後退過程に入り、2008年秋以降、外需の落ち込みで大
きな経済収縮に直面している。「平成21 年版労働経済の分析」では、「賃金、物価、雇用の
動向と勤労者生活」と題し、2007年後半から2008年央までの高い物価上昇により実質所得、
消費が停滞し、その後、輸出と生産の落ち込みによって雇用情勢の急速な悪化に直面してい
る勤労者生活について、賃金、物価、雇用の指標から総合的に分析する。
第1 章「労働経済の推移と特徴」では、第2 章、第3 章の分析に先立って、雇用、賃金、
物価、勤労者家計の諸側面から、近年の状況を概説する。まず、雇用情勢については、急速
に悪化し厳しさを増している。★2008年秋以降、有効求人倍率は大幅に低下し★完全失業率
は上昇している。★外需の縮小により輸送用機械など輸出関連製造業で求人は大きく低下し
た。また、賃金については、★特別給与が2007年に3年ぶりに減少するなど、現金給与総額は
2007 年から減少に転じた。さらに、物価は2007 年後半から上昇率が高まり、★実質所得と消
費を減少させ、景気が後退に転じる一因となった。2002 年からの景気回復過程は、輸出の
拡大によるところが大きく、所得・消費の伸びは力強さを欠くものであった。そして、★新興
工業国の成長などによって素原材料の需給が逼迫し、エネルギー価格にも投機的な上昇傾向
がみられ、我が国の輸入物価は上昇し、企業収益は圧迫されるとともに、消費者物価も上昇
し、実質賃金の低下幅は拡大することとなった。これに伴い、長期にわたった景気回復も
☆2007 年秋には、後退過程へと転じ、☆2008年秋以降には、世界経済の減速に伴って、
外需は大きく落ち込み、厳しい経済収縮に直面することとなった。今回の景気後退局面の深
刻化は、このような二つの局面が重なり合うことから生じており、国内需要の形成という観
点から中長期的な課題を示している賃金、物価面の動向と、外需と生産の大きな落ち込みか
ら生じた2008 年秋以降の雇用の動向との二つの側面について、分析、検討を行うことが重
要であると考えられる。
こうした状況認識のもとに、第2章「賃金、物価の動向と勤労者生活」では、消費支出を
中心とした内需の動きを賃金、物価の動向をもとに分析するとともに、すそ野の広い消費拡
大に向けた課題について検討した。我が国経済は、戦後復興から高度経済成長、さらには、
その後の安定成長から1980 年代後半の長期の経済拡大を通じて、旺盛なマクロの総需要に
牽引され、賃金と物価は長期的に上昇傾向を示してきた。しかし、バブル崩壊以降は総需要
の停滞は著しく、1990年代末からは、賃金も物価もともに低下する状況が続いた。また、
非正規労働者を活用する動きが広がったことも、労働者の平均賃金を減少させる方向に作用
した。こうした状況に対し、2000年代半ばより、ようやく賃金、物価は緩やかに上昇する
ようになったが、消費者物価の上昇は輸入物価の上昇などコストアップによるもので、国内
の消費需要の牽引力は強くはなく、また、生活必需品の価格上昇は低所得層への影響が大き
く、消費需要低迷の要因ともなった。今後、我が国が、持続性をもった経済成長を実現して
いくためには、内需の着実な改善に向け、すそ野の広い所得と消費の拡大を実現していくこ
とが課題である。非正規労働者を活用し、賃金を抑制する動きに対しては、不安定就業者の
正規雇用化などにより、長期雇用システムの拡張を通じて、より多くの人々に支えられた生
産性の向上と着実な所得の向上を実現していくことが重要である。